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東京地方裁判所 昭和25年(ヨ)891号 決定

申請人 竹内節三 外五名

被申請人 株式会社高岳製作所

一、保証 無保証

二、主  文

被申請人が、昭和二十五年二月二十一日附をもつてなした申請人C、同D及び同Fを同年同月二十三日限り解雇する旨の意思表示の効力を停止する。

申請人A、同B及び同Eの本件申請をいずれも却下する。

三、理  由

本裁判理由の要旨は次のとおりである。

一、当事者間に争のない事実

(一)  被申請人(以下会社という。)は、本社を肩書地に、工場を東京都内及び愛知県下の二ケ所に有し(以下東京工場及び名古屋工場という。)各種変圧器、配電盤、断路器その他の電気器具の製造販売を主業務とする会社であり、申請人等は、いずれも東京工場に勤務していた従業員で、同工場従業員をもつて組織する株式会社高岳製作所東京工場労働組合(以下組合という。)の組合員である。

(二)  会社は、企業合理化に伴う人員整理計画に基き、東京工場十六名、名古屋工場九十七名、本社二名合計百十五名の従業員の整理を発表したが、申請人等を含む東京工場関係十六名は会社より昭和二十五年二月二十一日附をもつて同年同月二十三日限り解雇する旨の意思表示を受けた。

(三)  会社組合間に昭和二十二年十月十四日締結された労働協約第三条には「会社ハ従業員ノ採用、解雇、転勤、職制及ビ諸規定ノ改廃ニ関シテハ組合ト協議ノ上決定スル」旨の規定が存し、右協約はその有効期間満了後、所定の自動更新規定によつて、昭和二十四年四月十三日迄期間を延長せられたが、右期間満了に先立ち、同年三月十一日会社、組合間の協定により同年五月末日迄期間を延長することとし、その後はその都度当事者間の協定によつて、各月毎に、一ケ月宛期間の延長を重ねていたところ、遂に会社は昭和二十五年一月三十一日組合に対し同日限り右協約を破棄する旨通告した。

(四)  会社の職員就業規則には次の如き規定がある、「第五十三条、左の各号の一に該当するときは、組合と協議し………解職する。

二、已むを得ない業務上の都合によるとき」

(一、三、四号省略)

二、争点

第一、申請人等に対する本件解雇は次の諸理由によつて無効であるか。

(一)  労働協約第三条(協議約款)に違反するか

(二)  就業規則第五十三条(協議約款)に違反するか

(三)  労働組合法第七条第一号に該当するか

第二、申請人等は本件解雇を承認したものであるか。

三、当裁判所の判断

第一、本件解雇は労働協約第三条(協議約款)に違反するか。

この点に関しては(一)本件組合の協約能力、(二)本件解雇当時における協約の存続、(三)協約の解雇協議約款の余後効が争われているので以下順次判断を加える。

(一)  労働組合法第二条但書第一、二号に該当する労働組合(法外組合)は協約能力を有するか。

労働組合法上協約能力を有する組合は、同法第二条、本文の要件を具備する組合であれば足ると解すべきであるから右要件を具備する限り、同条但書第一、二号に該当するとしても(第二、四号に該当する労働者の団体は、当然本文の要件を欠くから、この点は度外視する)このことから直ちにその組合の協約能力を否定すべきではなく、要は同条本文所定の自主性の有無如何によつて決すべきものである。しかして本件組合においては、会計、庶務(人事に関する職務を包含する)を担当する者及び倉庫、資材、調度の事務を担当する者の参加を許して居り(これ等の者が同法第二条第一号所定の監督的地位にある労働者ないし使用者の利益を代表する者と認むべきか否かの判断はしばらく措く)又会社が組合業務専従者の給与を支払つていた等の事実が存するが、右組合が同法第二条本文にいわゆる「労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体」であることは組合の従前の行動に照し極めて明らかであるから、本件組合は協約能力を有することは勿論であり、本件労働協約は有効に成立したものと認むべきである。

(二)  右労働協約は、本件解雇当時有効に存続していたか。本件労働協約が前記一の(三)記載の如き経緯により期間の延長を重ねていたこと、及びその最終の延長協定による期間が昭和二十五年一月一日より同月三十一日迄であつたところ会社が組合に対し同日限り協約を破棄する旨の通告をなしたことは当事者間に争がない。

しかしてかくの如き延長協定の場合にあつては、爾後協約の継続を欲しない各当事者は、何時でも期限後に対し有効にこれを破棄しうることは労働組合法第十五条第二項の法意に照し明らかであるから、右会社の破棄通告により本件協約は昭和二十五年一月三十一日限り失効したものというべきである。従つて会社に協約違反の余地は存しない。

(三)  協約第三条(協議約款)は余後効を有するか。

いわゆる「解雇協議約款」は解雇が労働者にとり、その労働契約関係を消滅せしめる意味において最大の待遇の変更であることに鑑み、これを使用者の一方的な経営権の行使に委ねることなく、労働組合が使用者の意思決定に参与することによつて労働者の地位の確保をはからんとするところに、その存在理由がある。

したがつて右約款は、本来使用者の経営権の範囲に属する事項についての組合の経営参加たる性格を基調にもつているものであつて、一面労働者の待遇に関する基準にかかわりをもつとはいえ、その本質はあくまでも経営参加条項と解すべきものである。

しかして協約の余後効は、協約中いわゆる規範的部分換言すれば個々の労働契約の内容たりうべき労働条件ないし労働者の待遇に関する基準を定めた部分につき生ずべきものであるが、右約款を経営参加条項の一として理解するならば、経営参加は、個々の労働者のための制度というよりはむしろ企業経営のいとなみ方に関する全体的な制度であり且つ労働組合がその主体たるべきものというべく、したがつて個々の労働契約の内容に移行しえない性質のものであるから、余後効を有しないと解すべきである。(しかしながら、個々の労働者は、解雇協議約款の存続中は、もとより右約款の効果を主張しうるし、又右約款違反の解雇は、単なる債務不履行にとどまらず、無効と解すべきである、これは経営参加が一つの客観的制度たる以上、これに利害関係を有するものは、何人もその存在と効果を主張できるのみならず、一般に制度違反の効果はその制度の目的と重要性によつて無効を招来するや否やが決定せらるべきところ、解雇協議約款は前示の如く労働契約関係の消滅という労働者の待遇に関する最重要事項にかかわりをもつものであるからその制度の目的並びに重要性に照し、右約款違反の効果を無効と断ずるにはばからないからである。)

第二、本件解雇は就業規則第五十三条(協議約款)に違反するか。

(一)  就業規則と労働協約に夫々「協議約款」が存する場合においても、労働協約の失効により、右就業規則中の同約款が当然に失効するものではない。(当庁昭和二十四年(ヨ)第三三三〇号事件決定「昭和二十五年二月二十二日言渡」参照)したがつて本件就業規則中の「協議約款」も前段認定の労働協約中の同約款の失効によつて何等その効力に消長なきものというべく、しかも前示就業規則中の解職事由の一たる「已むを得ない業務上の都合によるとき」とは、正に本件の如き企業合理化のための人員整理を意味するものと解すべきであるから、本件解雇の場合、右就業規則第五十三条の適用あることは当然である。

(二)  右就業規則中の「協議約款」における協議とは、解雇の要否範囲、解雇基準並びに被解雇者が当該解雇基準に該当するか否かの協議を含むものと解すべきことは、当裁判所が既に屡々判示したところであつて、本件の場合においても、右と別異に取扱うべき資料を見出しえない。

しかしながら一方「協議約款」ある場合、会社は如何なる事態においても、組合との協議を尽さずして従業員を解雇できないものと解すべきではない。即ち「協議約款」は前記の如く組合の経営参加を意味するから、もし組合が、かかる経営参加の資格を保有しえないと認められる場合、換言すれば会社の人員整理の提案が客観的にみて妥当であり且つ組合をしてその必要性を十分納得せしめるに足る手段方法を尽したにかかわらず、組合が正当の理由なくしてその提案を拒否する場合の如きは会社はこれに拘泥することなく一方的に解雇できるものと解すべきである。

(三)  そこで進んで本件解雇についての協議の有無及びその当否の判断に入ることにするが、これに先立ち、先ず会社の経理状況をみるに昭和二十四年末頃より一連の我国産業経済施策の実施に伴い会社は受註の激減、金融の逼迫、未囘収売掛金の累増、製品の滞貨等を招来して経営極度に困難を加え、早急なる企業合理化の必要に迫られ爾来その方途に腐心し来つたが、結局人員整理による企業再建以外に当時打開の途なき状態に立至つていたことを推知するに難くない。(この点については申請人等も本件訴訟においては敢えてこれを争わない)かかる前提に立つていま本件人員整理に関する双方の交渉経過の大要をみるに、会社が昭和二十五年二月八日組合に対し本件人員整理の申入れをなしてより、同年同月二十一日申請人等に対し、本件解雇の通告を発する迄、前後六囘(二月八日、九日、十四日、十六日、十八日、二十日)にわたり会社組合間に団体交渉が行われたが、組合側は会社の人員整理の提案に対し当初に賃上要求を申入れる一方、会社側が右人員整理案と共に提案した退職金支給規程改正問題の討議に時日を費やし、本件人員整理問題に関しては、先ず会社経営の欠陥ないし経理状況の不明を理由に全面的反対を唱え、次いで会社に対し、経理の公開並びに人員整理によらざる再建策の提示を求め、これに対して会社側が人員整理の必要性につき会社の経理状況に関する詳細なる計数的資料を提示して再三組合の協力方を要請したにもかかわらず組合の容れるところとならなかつたため遂に会社は組合の同意がなくても人員整理を強行する旨を言明するや組合はこれを全面的に不満とし人員整理案の撤囘を条件とする再検討を要求しつずけたため、会社はもはや妥結の途なしとして交渉打切を宣するに至つた事情が一応疏明せられるのであつて、かかる交渉過程に徴すれば、会社の本件人員整理の提案には相当の妥当性が認められるから、組合側は、会社の右提案に応えて人員整理の範囲、整理基準等具体的審議に入るべきであつて、別に積極的な再建策をも提示せずして当初来人員整理全面反対の態度を固執したことは行き過ぎというべく、右交渉が結局何等の実質的審議に入らずして終結をみたのはむしろ組合側の協議態度の不誠意に帰すべきものであると考える。したがつて本件においては、会社に対し就業規則上の協議義務違反の責を問うのは失当といわねばならない。

第三、本件解雇は不当労働行為か。

申請人等がいずれも活溌な組合活動者として会社の注視を受けて来たことは一応これを疏明しうる。しかし、解雇が不当労働行為たるためには、組合活動が解雇の決定的原因たることを要し、たとい組合活動が解雇の一動機となつていても、それが決定的なものではなく、他に解雇の決定的な有効原因が存する場合には不当労働行為は成立しない。換言すれば組合活動がなかつたならば解雇をしなかつたであろうという関係が成立たない限り不当労働行為とはならないといいうる。

そこで次に本件解雇につき果して決定的な有効原因が存したか否かについて考察する。

(一)  先ず会社は本件人員整理の基準として(1)業務能率低劣な者(イ、出勤常ならざる者、ロ、身心故障又は怠惰の為能率低い者)(2)会社業務に協力しない者(イ、社内秩序、職場の規程をみだす者、ロ、職場をしばしば離れる者、ハ、上司同僚間の融和協力を妨げる者、ニ、其の他会社業務運営に協力しないと認めた者)(3)身体虚弱者(イ、身体虚弱の為遅刻、早退、欠勤の多い者、ロ、身体虚弱の為勤務成績不良となる者、ハ、老朽者、長欠者)(4)配置転換を要する者で転換不可能なる者の四項目を設けたが、被解雇者の選定方針としては東京工場の全従業員に対する考課表に基き、右解雇基準に該当する者の中劣位にある者十六名を解雇者と決定したと主張する。

(二)  そこで右考課表における考課判定の諸基準と前掲整理基準との関連性及び同考課表の信ぴよう性如何が問題となる。本件考課表は定期昇給、賞与支給等の資料とするため、昭和二十四年度の成績を考査した結果できたものであり、その考査項目として(1)「技能」(2)「作業ニ対スル努力」(3)「勤怠」(4)「業務ニ対スル協力性」(5)「職場ニ於ケル重要度」(6)「応用力」(7)「職場規律」(8)「健康状態」の八項目を掲げているが、右諸項目は、前記解雇基準と同じく従業員の会社の経営効率に対する寄与の程度如何を判定する基準であつて、両者を比較検討するときは、右考査項目は前記解雇基準に集約しうる性質のものと認むべきである。

(なお、右両者の具体的関連性については、申請人等の不当労働行為の成否に関し個別的に検討することにする。)したがつて、右考査項目と解雇基準とが、前記の如き関連性に立つとするならば、本件考課表の信ぴよう性は、結局各項目の判定を夫々基礎ずける具体的事実、換言すれば、前記解雇基準該当事実の存否と、かかる該当事実の存在が、右考課表における申請人等の順位を他の従業員との比較において果して劣位に位置ずけているか否かにかかつているのであつて、本件考課表の信ぴよう性を、その作成経緯や形式等よりして問題とするのは失当である。

ただ本件にあつては、他の従業員の考課を基礎ずける具体的事実は欠勤日数、遅刻、早退囘数等の外挙示されていないので、申請人等と他の従業員との比較において具体的裏付けを欠くも、申請人等においても敢えて他の従業員の考課を争わんとせず、又考課表中本件整理基準該当事実に関する部分を除いては、特に考課の結果を左右する問題点があるとも認められないから、結局本件整理基準該当事実の評価が申請人等の考課を決定ずけるものといいうるであろう。

(三)  よつて進んで各申請人等につき右整理基準並びに考課表を中心として不当労働行為の成否を判定する。

(A) 申請人C、同D、及び同Fに対しては不当労働行為が成立する。

(a) C(整理基準(2)該当)に対する基準該当事実は

(1) 職場離脱(昭和二十四年三月十五日労働法規改悪反対の人民大会に、会社の意思に反して全従業員を参加せしむ)

(2) 職場放棄(同日ハンガーストライキをなす)とされているいま会社の主張する事実の経緯をみるに、組合は昭和二十四年三月十一日会社に対し、組合大会の決定に基き(Cは当時組合書記長)右(人民大会)に全従業員が、完全有給にて参加することを認めるよう協議を申入れたが、(他に二、三の協議申入れ事項あるも、当面の主たる事項は右人民大会問題であつた)会社は業務繁忙を理由にこれを拒否し、次いで同月十四日の交渉においても会社の許可をえられなかつたため、組合は右要求貫徹の目的をもつて翌十五日午前十時より同日午後四時までハンガーストライキをなす(C外一名が実行者)と共に一方従業員は右大会参加の決定を強行して職場を離脱するに至つたことが認められる。

右の事実に徴すると、前記「人民大会」出席のための従業員の職場離脱及びその要求貫徹を目的とするハンガーストライキの正当性はいささか疑わしいがその後同月十七日の会社組合間の協定(右大会参加を「欠勤扱いとする。但し、組合の責任は問わない」)に従い、同月二十四日会社は右大会参加者の賃金控除を決定して、この問題は一応落着をみたことが認められるから、今囘の整理に際しその解雇理由として、右の問題を取り上げしかも当時の組合書記長たる沢田の責任を問わんとするのは失当というべきである。

ひるがえつて同人に対する考課表をみるに、「業務ニ対スル協力性」(丙)「職場ニ於ケル重要度」(丙)「職場規律」(丁)とあるも会社の主張する前記基準該当事実をもつてしては、これ等の評価を低位たらしめるものとはいい難く、(なお、同人の早退十囘中八囘は、申請人Fと同様後記野球参加であつて、この点責むべき事情は少ない。)却つて、同人の作業能率は良好で、職場における重要度も、比較的大であつたことが疎明せられる。

(同人の技能の考課は乙となつている)

(b) D(整理基準(2)該当)に対する基準該当事実は

(1) 組合書記長在任中、全然会社業務に従事しなかつたこと。

(2) 職場離脱が挙げられている。

(1) 会社、組合間には従来より組合専従者についての明示の協定は存していなかつたが、会社は組合書記長が事実上組合業務に専従することを黙認していたことが疎明せられるので、Dが組合の書記長在任中(昭和二十四年五月から同年十一月まで)会社業務に従事しなかつたことを間擬するのは失当である。

(2) 同人が特に理由なく職場を離脱した事実は一応窺われうるが、一方同人は職場内の最古参者であつて、技能ないし作業能率の点からみて、職場における重要度も大きかつたことが認められるから、同人の考課を相対的に劣位ならしめる根拠は薄弱である。(同人の技能は乙であり、早退十五囘中八囘は後記野球参加であることを留意すべきである。)

(c) F(整理基準(1)(2)該当)に対する基準該当事実としては(1)欠勤日数、早退囘数の多いこと、(2)作業能率の低位が挙げられている。

同人の昭和二十四年中における欠勤日数、十四日、早退十八囘なることは同人もこれを争わないが、右欠勤日数中十日間は亡母の看病並びに葬儀家事整理等によるものであり又早退十八囘中八囘は、区労協主催の公式野球試合参加のため、野球部員全員が賃金控除を了承の上、会社の許可をえて約三十分ないし一時間の早退をなした場合であることが疎明せられる、しからば、前者の欠勤を問題とするのはいささか酷に失し、後者の早退を同人等に対してのみ取り上げるのは失当といわねばならない。更に同人が就業中雑談を交わすことがあつたことは一応窺われるがこれがため同人の作業能率が特に低劣であり、あるいは、同一職場内の作業能率を低下せしめていたとの疎明は十分でない。

いま右の事実を前提として同人に対する考課表を検討するならば、「勤怠」の評価を特に最低位(戊)ならしむる根拠は薄弱でありその他基準(2)に照応すべき「業務ニ対スル協力性」「職場ニ於ケル重要度」「職場規律」等の評価において、他の従業員より、特に低位(いずれも丙)となすことは直ちに首肯し難く、他にこれを疎明しうる資料は存しない。

しからば右申請人三名に対しては、会社の主張する整理基準該当事実をもつてしては到底考課表の順位を納得せしめ難く、したがつて、解雇の有効原因を欠くものといわなければならない。一方同人等が、終始活溌なる組合活動に従事し会社の注視を受けていたことは前記認定の通りであるから、結局同人等に対する本件解雇は、組合活動をなした故をもつてなされたものと断ぜざるを得ない。

(B) 申請人A、同B及び同Eに対しては不当労働行為は成立しない。

(a) Aは整理基準(1)(2)該当とされているが、以下会社の主張する基準該当事実について考察する。

(1) 無断外出及び会社事務所無断使用の点

これ等の点については、疎明のあるものとないものとが存するが、疎明のあるものも、事案は軽微であつて、本件解雇の決定的原因とはなし難いが右事実を通じ同人が会社の規律を軽視する傾きがあつたことは一応認めうるところである。

(2) 検査事務を怠つた点

(イ) 新規格による変圧器の検査に際し同人が約三百台の不良品を発見しえなかつたことが疎明せられる。

この点については、各製造行程に於ける製作上の指示や検査係に対する連絡等に関し、会社側の措置にも遺漏のあつたことは否みえないが、検査係として右製品の最終検査が疎漏であつたことは明らかであつて、同係主任としてAはその責を免れえないというべきである。

(ロ) 変圧器試験成績表は、変圧器の品質の良否、使用目的の判定等のため重要な資料であり、その実測値の記載に誤りあることは許されない性質のものであるが、Aは右成績表作成責任者でありながら、その記載にしばしば過誤をなし、その都度杉原主任より注意があつたにかかわらず、依然として誤りを繰返していた事実が疎明せられる。

(ハ) 会社の主張するその他の該当事実はその疎明が未だ不十分である。

(3) 同人の昭和二十四年中の欠勤日数は十日で事務室の従業員七人中最高位を示しているが、これは大腸カタルによる病欠であるから、特にこれを問題として取り上ぐべき性質のものではない。

しかし以上(1)(2)の事実を綜合すると同人は会社規律を軽視し、業務に対する熱意と責任感において欠くるところがあつたことが一応疎明せられるから、「会社の業務に協力せない者」に該当ししたがつて同人に対する考課表において「作業ニ対スル努力」「業務ニ対スル協力性」「職場ニ於ケル重要度」「職場規律」の評価が劣位となるのはやむをえないところである。

(b) B(整理基準(2)(3)該当)に対する該当事実は(1)身体虚弱にして遅刻、早退、欠勤が多いこと(2)変圧比試験が疎漏であつたこと(3)職場離脱とされている。

(1) 同人の勤怠をみるに、昭和二十三年度においては肺浸潤によつて二ケ月以上に亙る長期欠勤をなし、同二十四年中には、欠勤十五日、遅刻囘数三十三囘(全従業員中最高位)を示し、その大半はその疾患の治療保養のためであつたことが認められるから、同人は一応整理基準(3)に該当するといわねばならない。

(2) 杉原工場主任より変圧比試験を正式に行うよう指示があつたが、これに従わず、右試験行程を往々にして省略することがあつた事実は一応疎明せられる。右事実は整理基準(2)に該当する。

(3) 昭和二十四年十一月十二日同人が組合執行委員長を辞した後も、組合委員の改選、後任者たる申請人Aに事務引継等のため暫時会社業務に従事せず、組合事務を専行していたことが認められ、これがため検査係の業務に支障をきたしたことも推知しうるところであるが、当時組合幹部が就業時間中に組合活動をなすことは許されていた(協約終了後も就業規則第十六条による)のであるからこの項をとらえて会社業務に非協力なりとはなし得ない。しかし以上(1)(2)の事実を綜合して考察すると、同人に対する考課表において、「勤怠」「健康状態」の評価が劣位なることはやむをえないところであり、又「業務ニ対スル協力性」「職場規律」の評価が劣位なることも一応の合理的根拠ありとしなければならない。

(c) Eは整理基準(1)該当とされているが、同人は昭和二十三年八月入社以来出勤率は極めて悪く、同二十三年中に合計十七日、同二十四年中に合計四十八日欠勤し(同年度における欠勤日数は全従業員中最高位を占む)しかも、その欠勤理由の大半が農繁期における家業手伝であつたことは同人も認めて争わざるところである。毎年農繁期に際し、一囘ないし、二囘、かなり長期の欠勤を余儀なくせしめられる従業員の如きが「業務能率低劣な者」として会社の企業合理化に伴う人員整理に際し、解雇の対象となることは一応やむをえないところであり、更に右の基準該当事実が同人に対する前記考課表においては、「勤怠」「業務ニ対スル協力性」「職場ニ於ケル重要度」等の評価を低からしめ、ひいては、その順位を劣位ならしめたものと認むべきである。

もつとも右三名はいずれも組合幹部等を歴任して活溌なる組合活動に従事してきたものであり、殊にA、Bの両名は申請人等中最も有力なる組合活動者として、会社の注視の的となつていたであらうことはこれを窺うに難くないが、前記認定の如く、既に各々整理基準に該当し解雇の有効原因の存するところであつて、同人等において組合活動なかりせば会社がこれを解雇しなかつたであろうことを推認するに足る疎明は存しないから、同人等に対する本件解雇はたとい不当解雇意思を随伴するも不当労働行為とはなし難い。

第四、申請人等は本件解雇を承認したものであるか。

申請人等は、いずれも昭和二十五年三月四日、会社より解雇予告手当、及び退職金並びに退職餞別金を受領している。

しかしながら、同人等が会社より右退職金等を受領するに際し申請人Aより給料の前渡として受取る旨の言明がなされたこと、申請人等がいずれも退職願を提出しなかつたこと等の事実に徴すれば、同人等が右金員を受領したことによつて本件解雇を承認し、それに関する一切の紛争を終結せしめる意思を有していたと認定することはできない。

第五、結論、

(一)  以上考察した如く、被申請人会社が申請人C、同D及び同Fに対してなした前記解雇の意思表示は不当労働行為として無効であるにもかかわらず、被解雇者として取扱われることは、同人等にとつて著しい損害であるから、右解雇の意思表示の効力を停止する旨の仮処分を命ずるのが相当である。

(二)  しかしながら申請人A、同B及び同Eに対する解雇の意思表示は有効であるから、その無効なことを前提として地位保全の仮処分を求める同申請人等の本件申請は失当としてこれを却下すべきである。

よつて主文の通り決定する。

(裁判官 古山宏 中島一郎 齊藤平伍)

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